スポーツスター。
実におもしろいバイクだ。

あのハーレー・ダビッドソンの一員でありながら、押し出しの強さや威圧感など皆無である。
それでいて、馴れを許さない、ハーレー然とした存在感、ふてぶてしさは備えているのだ。
「スポーツ」とはいうものの、跨がってみると、やはりアメリカンである。
同クラスのスポーツバイクと比べて明らかに重く、悪く言えば鈍重である。
コクピットは、イマドキのバイクにありがちなハイテクの要素はなく、昔ながらのアナログなメーターまわりに、しごくあっさりとした操作系だ。
そもそも、コクピットなどという呼び方自体が、スポーツスターにはそぐわないものだろう。
所有欲をくすぐる、ワクワクするようなギミックなどカケラもないが、だからつまらないかといえば全くそんなことはなく、実にいい雰囲気で、満足感に浸れるのだ。

P1010458 (768x1024)
スターターボタンを押すと、OHV1202ccのロングストロークVツインは、いとも簡単に目覚める。
聞くところによると、昔のハーレーはもっと気難しかったらしいが、コイツはいかにも従順である。
そして目覚めた瞬間。
その振動が、鼓動が、オーナーを陶酔に誘う瞬間である。
はじめてこの振動を味わったときは、正直、ぶったまげたものだ。
「このバイク、壊れてるんじゃないか!?」である。
一般的に言えば、エンジンの振動など無いに越したことはない。
各メーカーとも、いかにして振動を消すか、低減するかに、躍起になっている。
…に対して、コイツときたら…
振動を消そうなんて気は毛頭ないのだ。
ラバーマウントの巨大なVツインは、大きめに作られたフレームのなかで、ガチャガチャとやかましい音をたてながら、目で見てわかるほどブルブルと震える。
その振動は、さらに増幅されながら、全身に広がっていく。
全身に…そう、バイクだけでなく、ライダーまで含めての全身である。
並の…ごく普通のライダーなら、眉をひそめたくなるような、酷いものだが、我々ハーレー乗りは、スポスタ乗りは、これが楽しみでバイクに跨がっているようなものなのだから、どうにも仕方がない。
一度これにハマってしまうと、普通のバイクでは頼りなくて…となってしまうのだ。

そして、クラッチミート。
さっきまでの振動が、シリンダー内の爆発の一発々々が、そのまま、地面を蹴ってボディを前に押し出す力となる。
「力が有り余ってる」感満点の、力強いスタートダッシュは、一度味わえば病みつきになる。
シグナルスタートで、ついついムダ開けしたくなる気持ちもわかってもらえると思うのだが、どうだろう。
もちろん、単純に速さだけをいうなら、全く誉められたものではない。
所詮は古めかしいOHVのツインである。
4,000も回せばお腹一杯、5,000では現実に頭打ちである。
良くできたDOHCマルチの「カムに乗る」と評される…軽く10000回転まで吹け上がる、胸のすく異次元の加速とは比べようもない。
しかし、それが物足りないかといえば、全く逆で、分厚いトルクによる、怒濤の加速フィールは、オーナーを虜にするに十分な迫力で、その重量級のボディを引っ張っていくのだ。

走り出してからも、この鼓動とトルク感は、乗り手を楽しませてくれる。
一定の速度で流している時…シリンダー内の一つ一つの爆発を感じ取れる程度に、回転を低めに抑えて…また、そこからアクセル操作だけで、速度を調節するとき、右手の動きに呼応する、生き物のような鼓動がなんとも心地いい。
シグナルスタートでのムダ開けと並んで、はた目には無意味な(場合によってははた迷惑な)加減速だが、この時、実は、スポーツスター乗りは、至福の時を楽しんでいるのだ。

にほんブログ村 バイクブログ スポーツスターへ
にほんブログ村

ブログランキング・にほんブログ村へ